ナレーション翻訳の尺合わせ費用はどう決まる?日本語→英語で1.3倍に膨らむ原稿量とタイムコード同期の見積もり実務

ナレーション翻訳で最も見積もりが荒れやすいのは「翻訳」ではなく「尺合わせ」です
ナレーション翻訳の相談で、発注側が最も見落としやすいのは「翻訳料金」そのものではありません。実際にコストを押し上げるのは、映像尺に言葉を収めるための再構成作業です。特に日本語→英語では、同じ意味でも語数が増えやすく、私の実務感覚では原稿量が1.2〜1.4倍、平均で約1.3倍になるケースが多く見られます。
たとえば、日本語で15秒・100文字の説明が、英語では自然に訳すと22〜24 words程度では済まず、固有名詞や修飾が入ることで30 words前後まで伸びることがあります。英語ナレーションの快適な読み速度は、用途にもよりますが1秒あたり2.5〜3.2 wordsがひとつの目安です。すると、15秒枠なら無理のない上限はおおむね37〜48 words。数字上は入っても、実際にはポーズ、映像の切り替わり、強調語の間が必要になるため、ギリギリの原稿は収録で破綻しやすいのです。
「訳せる」と「読める」は別物です
ここで重要なのは、翻訳原稿が意味として正しいことと、ナレーションとして読めることは別だという点です。尺合わせでは、単なる短縮ではなく、次の3段階で整理すると精度が上がります。
1. 情報の優先順位付け
必須情報、言い換え可能情報、削除可能情報に分ける。
2. 英語で膨らみやすい箇所の先回り処理
日本語の「〜において」「〜を通じて」「高品質な」「安心・安全」などは、英訳すると冗長になりやすい定番です。
3. 音にしたときの負荷確認
子音連続、固有名詞、数字、略語は時間を食います。文字数ではなく発話負荷で見る必要があります。
たとえば「当社は最先端技術を通じて高品質なサービスを提供します」は、直訳すると長くなります。ナレーション用途なら、
We deliver high-quality service through advanced technology.
よりも、映像文脈次第で
We deliver quality through technology.
まで圧縮できることがあります。ここに、翻訳者ではなくナレーション翻訳に強いライター/ディレクターの価値があります。
費用は「翻訳単価」ではなく、工程単価で考えると失敗しません
見積もりを安定させるには、翻訳を1本の料金にまとめず、工程ごとに分けるのが有効です。実務では以下のように切り分けるとわかりやすくなります。
- 通常翻訳費
元原稿ベース。日本語1文字あたり、または英語1wordあたりで算出。
- 尺合わせ編集費
映像尺に合わせてリライトする費用。翻訳費の20〜50%加算、または1分あたり固定料金で設定。
- タイムコード同期費
TCに合わせてセグメントを調整する費用。00:00:00:00単位の指定がある案件は、通常の翻訳とは別工程です。
- 収録前テスト調整費
仮読みで尺超過が出た場合の再調整。1回まで込み、2回目以降は追加、という設計が現実的です。
目安として、3分の企業VPを日本語から英語へ翻訳する場合、
- 翻訳:15,000〜30,000円
- 尺合わせ:5,000〜15,000円
- タイムコード同期:8,000〜20,000円
- 仮読み確認・再調整:5,000〜10,000円
というように、翻訳本体より周辺工程の比率が大きくなることがあります。
タイムコード同期の追加コストは「分数」より「分割数」で決まります
タイムコード同期の費用を単純に動画尺だけで計算すると、現場ではほぼズレます。実際に工数を左右するのは、何分の動画かより、何セグメントに分かれているかです。
たとえば同じ3分動画でも、
- A:3ブロックの長回しナレーション
- B:45カットに合わせて短文を細かく配置
では、Bのほうが圧倒的に手間がかかります。私なら見積もり時に、次の式で考えます。
追加コスト = 基本同期費 +(セグメント数 × 単価)+ 修正ラウンド費
具体例:
- 基本同期費:5,000円
- 1セグメント調整:250円
- 45セグメント
- 修正2回目以降:1回5,000円
この場合、初回見積もりは
5,000円+(45×250円)=16,250円
となります。さらに、収録後の再調整が発生するなら別途加算です。
使用ツールとしては、Excel / Google SheetsでTC一覧を管理し、Premiere Pro、DaVinci Resolve、Aegisubなどで映像・字幕・音声の当たりを確認すると効率が上がります。翻訳段階でTC列、原文列、英訳列、想定words数、実測秒数列を作っておくと、修正時の事故が減ります。
発注時に必ず確認したい3項目
尺合わせ費用のブレを防ぐには、発注前に次の3点を決めておくことが重要です。
- 完成優先か、原文忠実性優先か
- 英語話者の国・アクセントはどこか
- 尺超過時に削る権限を誰が持つか
ここが曖昧だと、翻訳者、ディレクター、クライアントの間で判断が止まり、最も高くつきます。特に英語は、アメリカ英語かイギリス英語かで語感だけでなく尺も微妙に変わります。数字や略語の読み方も変わるため、収録前に決めておくべきです。
安く見せる見積もりほど、最終的に高くなることがあります
「翻訳一式◯円」とだけ書かれた見積もりは、一見わかりやすい反面、尺合わせやTC同期が後から追加されやすい構造です。ナレーション翻訳では、翻訳・尺合わせ・同期・再調整を分離して見積もるほうが、結果的に予算管理しやすくなります。
日本語→英語のナレーションは、単に英語へ置き換える仕事ではありません。限られた秒数の中で、意味・音・テンポを再設計する仕事です。もし見積もりを取るなら、「英訳できますか?」ではなく、「この尺に収める前提で、どこまでの調整が料金に含まれますか?」と確認してください。ここを押さえるだけで、後工程のコストとストレスは大きく減らせます。

小林 将大 Masahiro Kobayashi
Professional Narrator
企業VP、CM、ドキュメンタリーなど年間300本以上のナレーションを担当。
高品質な宅録環境を完備し、スピーディかつ最高水準の音声データを提供します。
あわせて読みたい記事
ナレーション1本の見積もりに潜む『隠れコスト』とは? スタジオ代・リテイク費・尺調整を見える化する実務ガイド
ナレーション制作で見積もり外になりやすいスタジオ代、リテイク、原稿修正、尺調整の費用を可視化。追加請求を防ぐ見積設計と発注時の対策を実務目線で解説します。
海外向けローカライズ案件のナレーション費用相場|日→英・日→中・東南アジア言語の比較とバイリンガル起用の損益分岐点
海外向け映像・eラーニング・PR動画のローカライズで必要になるナレーション費用を、日→英・日→中・東南アジア言語で比較。バイリンガルナレーター起用時のコスト構造と判断基準を実務目線で整理します。
AI音声では埋まらない“責任コスト”とは? 医療・製薬ナレーション費用の新基準
医療・製薬動画のナレーション費用は、単なる尺や文字数では決まりません。修正リスク、薬機法配慮、監修体制まで含めた“責任コスト”の考え方を、実務視点で具体的に解説します。