ナレーション依頼の失敗を防ぐ『事前確認シート』完全版|発注者が必ず伝えるべき10項目と記入例

ナレーション依頼の成否は、収録前の1枚でほぼ決まる
ナレーション収録で最も多いトラブルは、録音技術の問題ではありません。多くは「イメージ共有不足」です。
「もう少し明るく」「少し速めで」「落ち着いた感じで」といった抽象的な指示だけでは、発注者とナレーターの頭の中にある完成形がズレやすく、結果としてリテイク回数が増え、納期もコストも膨らみます。
そこで有効なのが、依頼時に渡す事前確認シートです。私はこの1枚があるだけで、初稿の精度が大きく変わると感じています。特に企業VP、eラーニング、Web CM、館内アナウンスのように用途が明確な案件ほど効果的です。
今回は、発注者がナレーターに渡すべき10項目を、実際にそのまま使える記入例付きで整理します。
事前確認シートに入れるべき10項目
1. 使用目的・媒体
まず必要なのは「何に使う音声か」です。
YouTube広告、採用動画、IR動画、展示会映像、社内研修では、求められる温度感がまったく違います。
記入例
- 用途:新卒採用サイト掲載動画
- 媒体:Web、YouTube広告、説明会会場上映
- 想定尺:90秒
媒体が複数ある場合は、二次利用範囲も先に明記すると後工程がスムーズです。
2. 想定ターゲット
誰に向けて話すかで、声の重心は変わります。
20代向けと50代向けでは、語尾の処理やテンポ感まで変わることがあります。
記入例
- ターゲット:大学3年生〜4年生
- 属性:就活中、業界研究段階
- 印象設計:親しみ7、信頼感8、熱量6
「親しみ7/10」のように10段階評価で示すと、抽象語が実務レベルに落ちます。
3. トーン・キャラクター
「明るい」だけでは足りません。
爽やか、知的、包容力、誠実、ラグジュアリー、フラットなど、方向を具体化しましょう。
記入例
- トーン:誠実で知的、過度にテンションは上げない
- キャラクター:企業の顔として落ち着き重視
- NG:バラエティ調、売り込み感が強い読み
可能であれば、参考音声URLを1〜3本添えると認識合わせが早くなります。
4. 速度・尺感
速度指定は必須です。
日本語ナレーションでは、一般的な説明読みで1分あたり280〜340文字が目安。落ち着いた企業VPなら260〜300文字、Web CMなら320〜380文字程度になることもあります。
記入例
- 速度:ややゆっくり
- 想定:300文字/分前後
- 完成尺:1分30秒以内厳守
尺優先なのか、聞き取りやすさ優先なのかも明記してください。
5. アクセント・固有名詞
ここを曖昧にすると、最も修正が増えます。
社名、商品名、人名、地名、業界用語は、アクセント指定をテキストで書くか、短いガイド音声で共有するのが確実です。
記入例
- 固有名詞:〇〇テック、△△ソリューションズ
- アクセント:初回アクセント/平板 などを指定
- 読み方: “DX”は「ディーエックス」、 “AI”は「エーアイ」
Google Driveの音声メモやNotionに一覧化しておくと便利です。
6. 感情量・抑揚の幅
感情は「ある/なし」ではなく、どの程度の幅で動かすかが重要です。
記入例
- 感情量:10段階で4
- 抑揚:自然に、語尾を大きく上げすぎない
- 山場:後半のメッセージ部分のみ熱量を6まで上げる
全編を同じ熱量で読むより、どこでピークを作るかを示した方が、伝わる音声になります。
7. 間の取り方・呼吸感
プロっぽさは「間」に出ます。
説明重視なら情報の切れ目で0.3〜0.5秒、情緒重視なら0.8秒前後の間を取るだけで印象が変わります。
記入例
- 間:見出し前は長め、本編は詰めすぎない
- 呼吸感:自然、息は必要最小限
- NG:不自然な溜め、過度な演出間
映像に合わせる案件では、タイムコード指定が非常に有効です。
8. 禁止ワード・避けたい表現
意外と見落とされる重要項目です。
業界によっては使えない言い回し、避けたい語感、コンプライアンス上の制約があります。
記入例
- 禁止ワード:「絶対」「No.1」など根拠が必要な表現
- 避けたい表現:高圧的、断定的、若者言葉
- 発音NG:英語を過度にネイティブ寄りにしない
これは台本内容だけでなく、読みのニュアンス制御にも効きます。
9. 収録仕様・納品形式
演出が良くても、納品仕様が違えば再提出になります。
最低限、以下は明記しましょう。
記入例
- ファイル形式:WAV 48kHz / 24bit、モノラル
- ノイズ処理:軽微な整音のみ、過度なコンプ不要
- 納品単位:全文1本+センテンスごと分割
- ファイル名:projectname_001.wav
映像案件では-3dBFS前後、配信前提の仮納品ならラウドネス基準も共有すると親切です。
10. 修正基準・確認フロー
最後に、どこまでが無償修正かを決めておくこと。
これがないと、演出変更と原稿変更が混在しやすくなります。
記入例
- 無償修正:アクセント違い、軽微なトーン調整は初回納品後2回まで
- 有償対象:原稿差し替え、方向性の大幅変更
- 確認フロー:担当者確認→決裁者確認→修正指示一括返却
修正指示はGoogle DocsのコメントやFrame.ioで一元化すると、認識違いを減らせます。
すぐ使える一言テンプレート
依頼文に添えるなら、次の一文だけでも効果があります。
「添付の事前確認シートを基準に、初稿はトーン重視でご提案ください。尺が超過する場合は、聞き取りやすさ優先でご相談ください。」
この一言で、ナレーターは「何を優先すべき案件か」を判断しやすくなります。
良い発注は、良い読みを引き出す
ナレーションは、上手い人に頼めば自動的に完成する仕事ではありません。
発注者の情報整理と、ナレーターの表現設計が噛み合って初めて、短時間で精度の高い音声が生まれます。
だからこそ、事前確認シートは単なる事務書類ではなく、音声演出の設計図です。
「なんとなく伝える」から卒業して、「再現可能な言葉で伝える」へ。
その一歩だけで、初稿の満足度は確実に上がります。

小林 将大 Masahiro Kobayashi
Professional Narrator
企業VP、CM、ドキュメンタリーなど年間300本以上のナレーションを担当。
高品質な宅録環境を完備し、スピーディかつ最高水準の音声データを提供します。
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