ナレーターの『声のブランドカラー』設計術:色彩心理学で企業イメージに合う声を言語化する

ナレーターの声は「音」だけでなく「色」で設計できる
企業VP、採用動画、CM、サービス紹介。現場でよく起きるのが、「もう少し信頼感を」「若々しく」「高級感を」といった、正しいけれど曖昧なオーダーです。ここでナレーターやディレクターが困るのは、言葉の解像度が足りないこと。私はこの曖昧さを整理するために、声を“ブランドカラー”として捉える考え方を使います。
色彩心理学では、青は信頼・清潔、赤は情熱・緊急性、緑は安心・調和、黒は高級・威厳、といった連想が広く共有されています。これを声に置き換えると、クライアントの求める印象を、感覚論ではなく設計言語として扱えるようになります。重要なのは、声質の良し悪しではなく、そのブランドに対して適切な色味を持っているかです。
声のブランドカラーを決める3軸:温度感・明度・彩度
実務では、私は声を次の3軸で整理します。
1. 温度感
低温=理知的、静謐、距離感
高温=親密、情熱的、身体感覚的
2. 明度
低明度=重厚、権威、落ち着き
高明度=軽快、透明、開放感
3. 彩度
低彩度=上品、抑制、洗練
高彩度=元気、訴求力、勢い
たとえば金融・BtoB SaaSなら、低温〜中温/中低明度/低彩度が基本です。熱すぎる声は営業色が強くなり、逆に明るすぎると信頼の重心が浮く。一方、D2Cコスメや食品ECなら、中温〜高温/高明度/中彩度が相性良い。生活者との距離が近く、触感や体験価値を感じさせたいからです。
この3軸は、収録前ブリーフで10段階評価にすると共有しやすくなります。
例:採用ブランド映像
- 温度感:7/10
- 明度:6/10
- 彩度:4/10
- テンポ:0.92倍
- 抑揚:中
- 語尾処理:柔らかめ
ここまで数値化すると、「爽やかだけど軽薄ではない」が、かなり再現可能になります。
色を音声パラメータに翻訳する方法
では、色をどう声に落とし込むのか。ポイントは、抽象語を音声の操作項目に変換することです。私は主に以下の6項目で詰めます。
- 話速:基準100%に対し90〜108%で調整
- ピッチ重心:高め/中間/低め
- アタック:語頭を立てるか、丸めるか
- 息の量:ドライ〜ブレッシー
- 抑揚幅:狭い/中/広い
- 間の長さ:句読点ごとに0.2〜0.6秒目安
たとえば「ネイビーの声」を作るなら、話速93〜97%、ピッチ重心はやや低め、アタックは硬すぎず明瞭、息は少なめ、抑揚幅は中狭、間はやや長め。これで“知性・信頼・清潔”が出やすい。
「オレンジの声」なら、話速100〜105%、ピッチ重心は中高域、アタックは柔らかく、息は少し多め、抑揚幅は中広、間は短め。すると“親しみ・活気・参加感”が生まれます。
ここで大切なのは、色を1色で決め打ちしないことです。ブランドの多くは単色ではありません。たとえば「ベースはネイビー、CTAだけオレンジ」のように、本編は信頼、締めで行動喚起という二層構造にすると、映像やコピーとも整合します。
クリエイティブブリーフの実践フォーマット
私が現場で有効だと感じるのは、1ページで読める簡潔なブリーフです。最低限、次の項目を入れてください。
- ブランドの目的:認知/理解促進/比較検討/応募促進
- 想定視聴者:年齢、役職、視聴環境
- 目指す感情:安心、憧れ、緊急性、誠実さ など
- 声のブランドカラー:例「ダークブルー70%+アイボリー20%+オレンジ10%」
- 3軸スコア:温度感、明度、彩度
- 音声パラメータ:話速、抑揚、息、間、語尾
- NG指定:芝居がかりすぎる、通販調、ニュース調 など
- 参考素材:YouTube URL、既存CM、社内の好みサンプル
色の比率を入れると、関係者の認識が揃います。たとえば
「ダークブルー70 / グレー20 / ゴールド10」
なら、基調は信頼と理性、補助で中立性、最後に高級感。ラグジュアリー不動産やエグゼクティブ向けサービスに強い設計です。
“いい声探し”をやめると、ブランドは強くなる
ナレーションのキャスティングで失敗しやすいのは、「上手い人を選ぶ」こと自体が目的になるケースです。しかしブランドに必要なのは、万人受けする声ではなく、自社の人格を最短距離で伝える声です。声のブランドカラーを定義すると、オーディションの判断基準が「好み」から「適合性」に変わります。
録音後の修正も減ります。私は収録前に、30秒程度のテスト原稿を3パターン作り、
A:低温・低彩度
B:中温・中明度
C:高温・中高彩度
のように振って比較することを勧めています。制作側が同席できるなら、最初の15分で方向性がほぼ固まります。これは結果として、リテイク回数、スタジオコスト、編集工数の削減にも直結します。
声は見えません。だからこそ、色の言葉を借りると、驚くほど共有しやすくなります。
「この企業の声は何色か」
その問いから始めるだけで、ナレーションは単なる読みではなく、ブランドデザインの一部になります。

小林 将大 Masahiro Kobayashi
Professional Narrator
企業VP、CM、ドキュメンタリーなど年間300本以上のナレーションを担当。
高品質な宅録環境を完備し、スピーディかつ最高水準の音声データを提供します。
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