IR・決算説明動画ナレーション制作ガイド:正確性・中立性・信頼感を両立する実務設計と金融用語の読み方ルール

IR・決算説明動画で、ナレーションに最も必要なのは「うまさ」より「設計」です
IR動画や決算説明動画のナレーションは、企業VPや採用動画とは評価軸が異なります。投資家向け映像で最優先されるのは、感情を動かす表現力よりも、情報を誤解なく届ける再現性です。特に重要なのは、正確性・中立性・信頼感の3点を同時に成立させることです。
正確性とは、数字・固有名詞・制度用語・将来見通しに関する文言を一字一句ぶらさず読むこと。中立性とは、好材料を必要以上に明るく、リスク要因を必要以上に暗くしないこと。信頼感とは、抑制されたトーンの中でも「この会社は説明責任を果たしている」と感じさせる音声品質と話し方です。
実務では、完成原稿を受け取ってそのまま録るだけでは不十分です。私はIR案件では、収録前に最低でも次の3点を確認します。
1. 数値の読み単位:百万円、億円、bps、前年比、QoQ、YoYの扱い
2. 固有名詞の読み:役職名、海外拠点名、商品名、子会社名
3. 強調禁止箇所:業績予想、見通し、リスク記載、注記
この整理がないまま収録すると、映像編集段階で「そこは強く読まないでほしい」「営業利益率だけ別の読み方だった」といった差し戻しが起こります。IR動画は1本の修正コストが高く、ナレーション差し替えが字幕・テロップ・英訳にも波及しやすいため、最初の設計がそのまま制作効率に直結します。
正確性・中立性・信頼感を両立する、具体的な読み分けルール
では、どう読めばこの3要素を両立できるのか。現場では、私は以下のようにルール化しています。
まず正確性。数字は「意味のかたまり」で区切ります。たとえば「売上収益は1,284億3,700万円」は、単なる桁読みではなく、
「売上収益は|1,284億|3,700万円」
のように情報単位で処理します。四半期説明では、1センテンスを3.5〜5.5秒程度に収めると、スライド上の数値認識と同期しやすくなります。
次に中立性。IRではピッチ変化を大きくしすぎないことが重要です。目安として、通常の広告ナレーションよりも抑揚を20〜30%減らす意識が有効です。文末は言い切るが、上げすぎない。好業績パートでも笑声を入れない。逆に減損や下方修正でも必要以上に沈めない。投資判断を誘導しているように聞こえる演出は避けるべきです。
そして信頼感。これは低音で読めば出るものではありません。実際には、
- 語尾の処理を毎回そろえる
- 句読点ごとの間を一定にする
- 専門語で急にスピードを落とさない
この3点で大きく変わります。収録時の話速は、日本語で1分あたり270〜320文字がIRでは扱いやすい帯域です。速すぎると軽く聞こえ、遅すぎると自信のない印象になります。
音質面では、過度なコンプレッションやラジオ風の色付けは不要です。EQは80Hz以下を軽くローカット、2〜4kHzを上げすぎない、ラウドネスは動画全体設計にもよりますが、音声中心なら-16 LUFS前後、BGMが厚い場合は-18 LUFS前後を基準にすると自然です。大事なのは「聞かせる音」より「疑念を生まない音」です。
金融用語の読み方は、個人の慣れではなく「読みルール表」で統一する
IR案件で最も事故が起きやすいのが、金融用語の読み方の揺れです。たとえば、
- EBITDA:イービットディーエー / イービッダ
- ROE:アールオーイー
- ROIC:ロイック
- CAGR:シーエーグレア / カグラではなく、社内統一を確認
- 営業利益率:えいぎょうりえきりつ
- 親会社株主に帰属する当期純利益:長いためブレス位置を事前指定
- 減損:げんそん
- 償却:しょうきゃく
- 希薄化:きはくか
- 自己資本比率:じこしほんひりつ
重要なのは、「一般的にどう読むか」よりその企業がどう統一しているかです。証券会社、IR支援会社、社内広報、経理財務で読みが分かれることは珍しくありません。したがって、収録前にExcelやGoogleスプレッドシートで読みルール表を作成し、少なくとも以下の列を持たせると実務が安定します。
「表記 / 読み仮名 / アクセント / 初出タイムコード / 確認担当 / 備考」
私はさらに、将来見通しに関する文言、たとえば「本資料に記載された業績予想等は、現時点で入手可能な情報に基づくものです」のような免責文は、通常本文より5〜8%だけ速度を落とし、抑揚をさらに減らす設計を推奨しています。早口にすると“読み飛ばし感”が出て、コンプライアンス上の印象を損ねるためです。
IRナレーションは、派手さのない仕事に見えて、実は企業の説明責任そのものを音で支える工程です。読みの統一、感情の抑制、数字処理、音質管理。この4つを仕組みとして整えることで、投資家にとって「聞きやすい」だけでなく、「信用できる」動画になります。もしIR・決算説明動画を制作するなら、ナレーター選定の基準は声質だけでなく、金融文脈を理解して読みを設計できるかまで含めて考えるべきです。

小林 将大 Masahiro Kobayashi
Professional Narrator
企業VP、CM、ドキュメンタリーなど年間300本以上のナレーションを担当。
高品質な宅録環境を完備し、スピーディかつ最高水準の音声データを提供します。
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